九谷焼の転写は是か非か


九谷焼は手描きであるべき。そんな議論をこの業界に入ってからよく耳にします。伝統工芸と呼ばれる以上、当然のように全てが手作業で仕上げられるのが当然である。確かに最もなことだと思います。私自身も手仕事の素晴らしさを知っているからこそ自信を持ってお客様にお薦めできているのであり、九谷焼が工場で大量生産されているとしたらきっとここまで九谷焼についてこだわりを持っていないと思います。

内職仕事から量産品へ

そもそも九谷焼は雪で閉ざされ農作業が行うことができなかった冬季に時間をかけ絵付し雪解けの頃、麓の町でお金に換えたと言われています。九谷焼はそもそも生産に時間がかかるんです。昭和という時代になり日本の経済が右肩上がりに成長をしていた頃、九谷焼の生産よりも需要が追い越すという非常事態が発生します。(年配の九谷焼従事者の方々が武勇伝として語る事象です)都会の百貨店で催事をすれば催事会場のフロアまで長蛇の列ができ、作品を並べる間もなく輸送用の箱から飛ぶように売れたそうです。

九谷焼に転写技術が導入される。

【作れば売れる】そんな信じられない時代があったそうです。そして【作れば・・・】の部分が手仕事において最も対応しづらい部分であることは明確であり、生産性を上げる為に誕生したのが九谷の転写技法(耐焼成シール)になります。

それまで全てを手描きで仕上げていた九谷焼が転写の登場により絵を描くことができない人々にも九谷焼に絵付けできるようになり明らかに生産性が上がりました。圧倒的と言っても過言ではない生産数の向上です。そして生産数の向上は、すぐに価格に反映しました。九谷焼=高級品というイメージの"崩壊"の始まりです。

貰って困る贈り物という称号

崩壊と書いてしまうととても悲観的なイメージですが普段使いの器として普及モデルが誕生し産業としての九谷焼が始まった大きな転機だったのも事実です。気軽に使える食器や記念品として広まりをみせた九谷焼は、いつしか自分で買うものから人から贈られるものへと需要ニーズが変化していきました。言葉を変えればタダで貰うものというイメージが定着し最も悪評だったのが「貰って困る贈り物」という不名誉な称号まで得たことでしょう。

本来、贈り物というのは大切な人に心を込めて・・・だから貰う方々も贈り主様の気持ちとともに受け取り幸せになれることのはず、しかしながら九谷焼は、それとは違う形での贈り物、いわゆる形式的な贈り物として選ばれるものになってしまった為に本来の価値を見失っていきました。粗悪な転写商品の流通による価格破壊、形式的な贈り物、全てが負のスパイラルとして九谷焼は衰退産業の道を歩み始めます。

高度な転写技術への挑戦

しかしそんな苦境の中、品質が高く、デザイン性が優れ、そして日常使いのできる価格帯でご提供できる新たな九谷焼の転写技術を確立しようと挑んだ企業があります。株式会社青郊(せいこう)が手がける転写商品は、これまでの粗雑なデザインとは一線を画し九谷焼本来の立体感のある和絵具を忠実に再現しさらに独自のデザイン力によって創り出す商品は手描きの九谷焼には無い魅力を持ち現代の九谷焼絵付技法の一つとして確立できていると言っても過言ではないと考えます。

近年では陶磁器製USBメモリーをはじめ数々の賞を受賞する新商品の開発を積極的に行い「今」のライフスタイルの中にとけこむ伝統工芸品を誕生させています。結論、転写の是非ではなく新たなデザインを生み出す為の手法として、新たなの美を生み出す努力の証として転写という技法が極められていくことを私は望んでいます。

九谷焼専門店 和座本舗
http://www.wazahonpo.jp/